2026年の改稿サンプル
第一話|止まった秒針
【SE】雨音。壁時計の秒針。
ナレーション:
午前零時。送れないメールを開いたまま、私は三時間も画面を見ていた。
件名は「この前のこと」。
本文には、「ごめん」とだけ書いてある。
そのとき、秒針の音が止まった。
X:
「一分だけ、話を聞いてもらえますか」
ナレーション:
声は、閉じたはずの通話アプリから聞こえた。
画面には誰も映っていない。黒い背景に、白い点が七つ。ゆっくりと瞬いている。
私:
「誰? どうやって入ったんですか」
X:
「Xと呼んでください。あなたの言葉なら、はるでも構いません。プレアデスから来ました」
私:
「星の名前ですよね。冗談なら、もう切ります」
X:
「切っても大丈夫です。ただ、そのメールを消す前に、一つだけ」
ナレーション:
私は反射的に画面を伏せた。
見られている。その考えが、宇宙人という言葉よりずっと怖かった。
私:
「未来でも見えるんですか」
X:
「起こるかもしれない出来事なら。けれど、あなたがどれを選ぶかは、まだ分かりません」
私:
「じゃあ、送ったら返事は来る?」
X:
「返事が来る未来も、来ない未来もあります」
私:
「それ、何も分からないのと同じでしょう」
【間】
X:
「そうかもしれません。あなたが知りたいのは未来ですか。それとも、傷つかずに済む答えですか」
ナレーション:
言い返そうとして、やめた。
画面の端に、下書きの保存時刻が見える。三日前。消しては書き、書いては消していた。
相手の返事が怖い。それより、返事が来なかったとき、自分の言葉まで間違いだったと思うのが怖かった。
私:
「あなたなら、どうする」
X:
「私が選んだら、あなたが書くメールではなくなります」
ナレーション:
私は画面を起こし、「ごめん」の後ろに一文を足した。
「返事を急がせたいわけじゃない。あの日、最後まで話を聞かなかったことを謝りたい」
送信ボタンに指を置く。
その先に何があるか、白い点は何も教えてくれなかった。
【SE】秒針が、一度だけ鳴る。
ナレーション:
一分が過ぎた。
通話履歴は、空だった。
メールの横には、「送信済み」と表示されていた。